「茜、婚姻届けは本日中に提出する。だから、お前は今日から夫の黒木君のマンションで暮らしなさい。お前の両親には既に連絡はしている。荷物も黒木君のマンションへ届けられているはずだ。」
祖父の言葉がまるで外国語のように聞き取れなかった茜は呆然としているだけだった。
祖父は婚姻届けを手にすると座敷から出て行ってしまった。実に呆気ない入籍となってしまった。
「俺達二人の結婚は茜が高校を卒業するまでは極秘扱いにしてもらうことにした。だから、学校ではいつも通り舞阪茜を名乗っても大丈夫だからね。」
祖父が座敷を出てやっと口を開いた茜の夫となる黒木優也(くろき ゆうや)。落ち着いた物腰でとても優しく話しかける優也は、その眼差しもとても優しいもので茜を不安にさせない瞳を向けていた。
「あの・・・・えっと、」
「ああ、自己紹介が遅れたね。俺は黒木優也。舞阪商事株式会社の商品開発課で働いている社員です。」
「私は、」
「知っていますよ。白鳥学園高等部1年の舞阪茜さん。舞阪商事株式会社会長のお孫さんで、人事部部長舞阪光一さんのお嬢さんですよね。」
笑顔でそう説明する優也は名前通りのとても優しそうな雰囲気の人だった。政略結婚を覚悟していたとは言えどんな相手が自分の夫になるのだろうかと不安だった茜は優也を見て不安はどこかへ吹き飛びそうになった。