ぐりぐりと押し付けてくるそれは、きっとみどりの頭。
細い髪がTシャツ越しにくすぐったい。
笑いたくなるのを堪えながら、ペダルを踏む。
ゆっくりと動き出した自転車は、キーコキーコ、また悲鳴を上げる。
「……大人に、なりたいな」
不意に、小さく聞こえたみどりの声。
ぐりぐりと動いていた頭は、もう止まっていた。
控えめに、キュッと握られたTシャツの裾。
じんわりと背中に感じる温もり。
橙色の夕日は大きくて丸くて、綺麗だった。
空も山も田んぼも畑もカカシも、全部がきらきらと輝いて見えた。
いつもは猛スピードで下る坂道を、しっかりとブレーキを握って下った。
少しでも長く、この瞬間にいたかった。
どこまでも、どこまでも。
坂道が続けばいいと思った。