「……しゅー」
「なに」
この町に来たのは、つい最近のことのようで、すごく昔のことのようだ。
ただ、元通りの生活に戻るだけなのに、この町に来る前の自分を思い出せない。
戻りたくないと思ったところで、何が変わるわけでもなく。
ずっとここにいたいと願ったところで、それは叶うはずもない。
所詮、中学生だから。
学校という名の小さな社会の中で、自立した気分になっているだけで。
保護者の許可なしに出来ることは限られているし、自分一人で勝手な行動は出来ないし。
だからといって、べったりと甘えることも出来なくて。
大人になったつもりで、大人じゃない。
子供だといわれるほど、子供じゃない。
すべてが中途半端なんだ。
こつん、と。
背中に小さな温もりを感じた。
「しゅー」
「だから、なに?」
「……呼んだだけー」
「なんだそれ」