「わぷっ」
とんっ、と背中に軽い衝撃を受ける。振り向けば、みどりは額を摩りながら顔を上げた。
近くに立っているのは、見慣れたカカシ。
「あ、もうここまで着いたんかー」
「うん」
長く曲がりくねった坂の先、見えるのは俊彦の家。
橙色の大きな夕日は、ちょうど山に沈もうとしている。
後ろでみどりが、すうっと息を吸い込む音がした。
「何してんの」
「なんでもなーい」
そう言われたら、余計に気になるのが人の性というもので。
俺も小さく、息を吸い込んでみる。
むせ返るような緑の匂い。それに混じって、湿っぽい空気と泥と土の匂いがする。
そういえば。
『――夏の風、きっと分かるよ』
いつだったか、そんなことを言われたような気がする。
満足げなみどりの声も、覚えている。