「ここ左だっけ?」
「うん」
念のため確認しながら運転する。
自転車はキーコキーコと悲鳴を上げていて。
危なくないように慎重に漕いでいるつもりだけど、逆にスピードがなくてこけそうになる。
「しゅー」
「なに」
「あのさー」
「うん」
みどりの運転はいつも雑だったけど、慎重に漕ぐのもなかなか難しい。
「……これ、めっちゃお尻痛いな」
「あっそ」
「ついでに言うと、腹筋も痛い」
「だろうな」
「よくも毎日堪えとったねー」
感心したようにそう言ったみどり。
確かに、荷台に乗るのもあまり楽ではない。
でも、もう慣れてしまったから。
「別に、そこまで辛くないし」
「うっそお」
「本当」
頭上をカラスが飛んでいく。
誰かが所有している山の横を通ると、ヒグラシの甲高い鳴き声が聞こえた。
ぽつりぽつりと会話をしながら、細い橋を渡る。
水の流れは緩やかで、底のほうで藻が揺れているのが見える。田んぼの向こうの道を軽トラが走っていった。カラスよけに張ってあるテープは、太陽の光を反射させながら眩しく輝いている。