じっと目を合わせたまま逸らさない達郎。

聞くか聞くまいか、きっと一人で葛藤したのだろう。

その瞳の奥は微かに揺れていて、俺は目を逸らせなかった。


「……午前中だと思う。涼しいうちに、って言ってたから」


ぽつりと言葉を落として沈黙を破ると、少しばかり空気が軽くなったような気がする。

みどりがチューペットを吸う音が聞こえて、由香が息を吐く音も聞こえて、達郎は目尻に皺を作った。


「そうかー」

「うん」

「そうかー……」

「……うん」


ちゅう、紫色を吸い上げる。

ぶどう味のごろっとした氷を、しゃくしゃく頬張る。


ちりん、また風鈴の音がする。

生温い風が穏やかに吹いた。

足元の雑草は小さく揺れる。

ふくらはぎが痒いな、と思って見てみたら、蚊に刺されたようで赤く腫れていた。


「……そうか」


もう一度、呟くように言った達郎。

ゆっくり目を閉じたら、その声はやけに耳に残った。