ガラッという音と一緒に聞こえた、もう聞き慣れた声。
思わず、俊彦と顔を見合わせる。
「……鍵、閉めてなかったわけ?」
「いや常に開けてあるから」
はは、と笑う俊彦。
いつかこの家、空き巣に入られるんじゃないだろうか。
「しゅーうー! 起きとるー?」
玄関のほうから聞こえるみどりの声。
まだ、納豆食べてないんですけど。じっと納豆に視線を落とす。せっかくいい感じに混ぜたのに。
「おーい、しゅーうー」
そんなことを知らないみどりは、また叫ぶ。
父親はテレビに向けていた視線を逸らし、肩を震わせて笑った。
「柊、みどちゃんがお呼びだよ」
ゆっくりと言った父親。それはきっと、行ってこいの合図。
「……知ってる」
仕方ない。納豆は諦めるとするか。
「……勝手でごめんな、柊」
席を立って玄関へ向かおうとした自分に、小さな小さな声が向けられた。本当は聞こえていたその声に、聞こえていない振りをした。
それは何に対する謝罪なのか。せっかく馴染んだこの地を離れることに対しての謝罪だとしたら、それは見当違いだ。だって俺はまだ子どもだから。唯一の肉親についていくのは当たり前だから。初めから分かっていたことだから。
だから、謝られるような筋合いは何一つ無いんだと。
自分に落とし込むように深呼吸をして、足早に家を出た。