「とりあえず、僕達の家に行こう。こんな場所じゃ寒いだろ?」
  ヒロは、なにかしらアクションを起こすわけでも、返事をするわけでもなく、ただただ私の体を心配してくれた。
  それは素直に嬉しい事だが、"家"にいく…?正気だろうか。
 ついさっき出会ったばかりの他人を家に招くなど、警戒心の有無が不安になる。
 だが、先ほどまで感じることのなかった"寒さ"が、思わぬ出来事により少しだけ戻ってきてしまっていた。
 …つまり、肌寒いのだ。やはり感情は不便としか言いようがない。 
 「それにヒカリ、そんな薄着じゃだめだよ。あ、あと怪我も手当しなきゃ。」
  別にいい。
 そう言おうと口を開き、また閉じる。
 自分でやっておきながらその動作の意味はわからなかった。
 「…ったく、ほら行くぞ。」
 「ごめんねヒカリちゃん。こいつ素直じゃないから。」
 「…!!うるせぇ!」
  私の前に手が差し出され。勿体無いぐらい優しい微笑みが私を見下ろし。
 「ほら、帰ろう?」
  昔々の温かい記憶と重なった。 目尻に水が浮かぶ。
  その手をとるか否か。
  考えるまでもない。
 私は自分の甘さに負け、じんわりと温かい手をぎゅっとにぎった。
  だが、未来の私は、この時自分の弱さに負けことを生涯恨むことになる。