「鶴さんは何も分かってない!」


もう、残り1時間も無い限られた時の中で、彼と口論などしたくなかった。
でもこの場できちんと言わないと、鶴さんが納得してくれないだろう。それだけは感じたので、素直に自分の想いを口にした。


「私がどうして他の人と付き合わないのかなんて、単純なことだよ。鶴さんが行方不明になって、帰ってくるのを待ってたのは間違いないよ。だけど大前提として、私は鶴さんのことが好きなの!」


食ってかかるような勢いで、目を丸くした鶴さんを睨んだ。


「鶴さん以外の人となんて付き合いたくない!結婚したくない!鶴さんじゃないならひとりでいた方がいいんだもん!どうしてそれを分かってくれないの?」

「小春さん」


鶴さんの両手がのろのろと伸びてきて、今度は正面から私を抱きしめる。
私もしっかりと応えるように彼の背中に手を回した。


「小春さん……ごめん。僕は嘘をついた」

「嘘……?」


抱き合いながら、見当もつかない彼の「嘘」を探す。
どこに嘘があったのか、ちっとも気づかなかった。


「僕が君に会いに来た理由。未練なんかじゃない。ちゃんと目的があってここに来たんだ」


ゆるゆると体を離し、私は鶴さんを見つめた。
彼の瞳の中に私が映り込んで、そのまま鶴さん吸い込まれそうな感覚に陥る。
これも5年前までは当たり前に感じていた感覚だった。


「僕はきっと、その目的が果たせないから成仏出来ないんだね。だから、きちんと言わせて。━━━━━僕は、君にもう一度プロポーズしに来ました」


ドクン、と胸が震えた。


嬉しいのか、
悲しいのか、
切ないのか、
痛いのか、
苦しいのか。


なんとも言えない感情が体の中に芽生えて、それは急速に大きくなって浮上して喉につかえる。


我慢していた涙が、ホロホロとこぼれた。