「小春さん、ごめん。僕がここにいられるのは、今日だけなの。日付が変わるまで」

「そんな……。じゃああと1時間も無いじゃない……」


時計を見て、ドキンと不安が胸を打つ。
誰に決められたのか、そんな心無いルールを作られて縛られてしまうのが悲しかった。


「鶴さん、どうして急に私の前に現れたの?何かこの世に未練があってここに来たってことなの?」

「…………………………未練と呼べるかどうかも微妙なところだけどね」


鶴さんは少し改まったように座り直し、私の目を何か探るような眼差しで見つめてきた。
その意図が読めなくて首をかしげる。


「これからずっと、小春さんはひとりでいるつもりなの?」

「━━━━━どういう意味?」


さっきよりも大きな不安が胸を包み込んでくる。
鶴さんの言わんとすることを察して、即座に目をそらした。


「ひとりで生きていくのはつらいよ。寂しいよ。切なくなるよ。そんな時に誰かの支えが欲しいって思う時ない?」

「無いよ、そんな時」

「これから先もずっとひとりなんだよ?ずーーーっとひとりでご飯を食べてひとりで寝るんだよ?」

「大丈夫。5年も続けられたんだから一生続けられる」

「この5年で少しはいたでしょ?小春さんを想ってくれる他の男」

「そんなのいないからっ」


2年ほど前に職場の先輩にそれらしいことを言われた記憶はあるけれど、丁重にお断りした。
それを鶴さんに言うつもりはなかったが、彼がどこまで知っているのかは不明だ。


「僕以外の人を好きになっても、僕は責めないから安心して。小春さんにはそういう人が必要だと思うから」

「聞きたくないっ」


鶴さんの無神経な言葉がグサグサと刺さって、胸をかきむしりたくなるほど苦しくて切なくなった。
そうしないように、両手で耳を塞いだ。