時間をかけて作った料理を、鶴さんはあっという間に全て平らげた。
食があまり進まない私の分までつまみ食いしてしまうほど、彼の食欲は旺盛だった。
もともとたくさん食べる人だったけれど、今日は輪をかけてモリモリ食べていたような。
「僕の感覚としては、津波に飲み込まれたのはつい昨日のことって感じなんだ」
ひと通り食事を終えた鶴さんが、箸を置いて私を見つめる。
え?と聞き返すと、彼は壁掛けのカレンダーを見やって苦笑いした。
「5年後だなんて信じられないよ。津波に飲み込まれて、車の窓ガラスが割れて、村上さんの悲鳴が聞こえて。気がついたら僕は割れた窓からさらわれるようにして外に流されて。濁流の中で何かにぶつかったのは覚えてる。そこで記憶は途切れてるんだ」
彼の言う何かにぶつかったというのは、致命傷を与えたきっかけなのかもしれない。
私はそういった経験が無いから、鶴さんの言葉のひとつひとつが不思議な響きを持っていた。
「次の瞬間は、真っ暗闇の中にいてさ。その中を歩いてるの、途方もなく。それで、ひとつ扉が見えてきてね。覗いてみると小春さんがいたの」
「わ、私?」
「うん。でも、悲しそうに泣いてたんだ」
「………………え?」
「僕が行方不明になってしまったから泣いてたんじゃないかって思って。違うかな?」
涙は、もう枯れるんじゃないかというほど流した。
だけど実際に枯れる事はなくて、いくらでも湧いてくる涙に疲れたこともあった。
「小春さんが泣いてるのを見てね、冷静に分析したの。あぁ、僕は死んだんだなって。生きていたら、どんな手段を使っても小春さんに会いに行くもの。それが出来ないって事は死んだってことなんだ、小春さんが泣いてるのをただ見ることしか出来ないって事は、死んだってことなんだ。……そう理解したの」