もうすぐ帰ってくる。

そのうち帰ってくる。

いつか帰ってくる。



そう思っているうちに、どんどん時が過ぎていった。


彼が行方不明者リストに加わってからは、出来る事はすべてやった。
各地で保管されている、津波が引いた後に残されたありとあらゆる漂流物。中には明らかにどこかの家族のアルバムのようなものだったり、仏壇の位牌のようなものもあった。
その中に鶴さんの手がかりが無いか調べた。


私ひとりじゃない。
鶴さんのご両親も兄弟も、私の両親も。
みんな総出で鶴さんの手がかりを求めた。


でもどんなに探しても、彼の所持品などはどこにも無くて。
途方に暮れるしかなかった。


鶴さんの車は見つかったけれど、持ち主がどこかへ行ってしまった。
津波の被害に遭って流されたとしても、どこか遠いところへたどり着いていればいい。

生きていてくれればいい。


おじいちゃんになった鶴さんが、おばあちゃんになった私を探してくれるかもしれない。
しわくちゃの手で私の手を握りしめて、「ずっと会いたかった」って言ってくれるかもしれない。


そうなった時のために、鶴さんが私と暮らしていたアパートに来た時のために、一生この部屋で暮らすつもりだったんだ。


それなのに、私の希望を鶴さんが絶ってしまった。




目の前に座る鶴さんが「死んだ」なんて言うから。
僅かな希望が、消えてしまった。