「真奈ちゃんも異動?あ、言っちゃダメなんだっけ?」

「ううん。このまま香さんのところでやりたいって言ったら、それでもいいって。続けるだけだからたぶん内緒にしなくていいと思う。

でも、もしどこでもいいって言ったら、またどこかに回されてたのかもしれない。武田さんのところも足りなそうって言われたのね。人が足りないのに三上くんを動かすんだから、何か理由があるんでしょ。

ウサギに行くの、誰でもいいなら私だったと思う。でも、わざわざ三上くんを動かしたんだから、三上くんだからウサギに行ってほしいんだと思うよ」

「オレだから?」

「うん。どういう理由か私はわからないけど、三上くんだからなんだと思う。だからきっと大丈夫だよ、うまくいくよ」

とにかく泣いたりしてほしくなくて、懸命に励ます。大丈夫だよ、三上くんだもん。技術力もあるし、人当たりもいいし。



「オレだから、か」



三上くんは黙ってしまった。

大丈夫かな?でも考え事してるみたいだからそっとしておこう。黙って何か考えている横顔は、結構男らしい。



私は残りのワインを飲んで、邪魔にならないように1人でぱくぱく食べた。やっぱり美味しい。



しばらくして、三上くんははっとしたように顔を上げて、「ごめん、オレ完全に1人になってた」と言う。

考え事してたんじゃなくて酔ってぼんやりしてたのかな? 私は飲むペースが早いらしく、一緒に飲んでる人が釣られて頼んでると酔っぱらってしまうことがある。



「大丈夫? 酔ってる? もうやめといたら?」

「真奈ちゃんは強いね」

「うん、遺伝だよ」

「え? ああ、お酒も強いね」

大丈夫? 自分で振っといて「え?」ってことないでしょ。やっぱり酔ってる? 三上くんってお酒弱いんだったかな。そういうイメージないけど。

「元気出たよ、ありがとう」

三上くんが爽やかににっこりと笑う。こういうときは本物の王子らしい。よかったです、お役に立てて。