と思ったら顔を上げ、私に言い聞かせる口調に変わる。

「噂ってのは不確定な時にするのが面白いんであって、あいつが嬉しそうにのろけてきてからじゃつまんないわけ。
言っとくけどお似合いだよ。ってなんで俺がこんなこと言わなきゃいけないんだよー、ムカつくな三上」

お似合い。沙耶にもちょっと言われたことあるけど、それは友達として励ましてくれているだけと思ってた。男の人に言われるのはちょっと嬉しい。



「三上は三上で、『真奈ちゃんは寂しがってくれない』とかくっだらねえこと俺に言ってくるし。適当にうまく甘えとけよ、うっとうしいから。そんな泣きそうな顔は三上の前でやってやれ」

沢田さんは三上くんのかわいい口調を真似したけど、沢田さんがやると変……

ていうか、三上くんそんなこと言ってるんだ。恥ずかしい……でも言いそう。

「プライベート充実してるんだったら仕事も頑張れるだろ。今の仕事に上乗せしてやってくけど、残業増えると人事がうるさいから時間作ってくぞ」

「はい。香さんと仕事配分相談します」

仕事の話に戻った沢田さんに、私もハキハキと気合いを入れて返事をした。




打ち合わせが終わり、部屋を出ていくときに沢田さんがぽんっと私の肩を叩く。

「三上があんな感じじゃどうせ広まるし、ごちゃごちゃいう奴いないから心配すんなよ」

「あんな感じって?」

「どう見ても三上が口説き落としたって感じだから。お前がただのイケメン好きだとしても目立たないから」

にやっと笑って振り返る。そんなことを言われるのを気にしてるわけでは! いや、ちょっとしてますけど!



「平内は社内で手を出さないって公言してるけど、まぁ食われなくってよかったな」

やっぱり沢田さんにもばれてる! ひーっと真っ赤になったであろう私に構わず、沢田さんは口笛を吹いて行ってしまう。

でも思い出したように「今度はボール蹴れる恰好で来いよー」と振り返って言われた。

相変わらず軽くけなされているけれど、沢田さんは卑屈な私を励ましてくれたんだ。