田代部長に改善したいことが色々あると言った手前、ちょっと居残って案をまとめようかと考えていたとき、暗い顔の三上くんが私の席にやってきた。
空いているオフィス椅子を私の隣までカラカラと引っ張ってきて座り込み、横から静かに声をかけてくる。
「真奈ちゃん、オレは1人じゃないって言ってくれたよね」
ああ、またドラマチックになってるけど、そうだね。ここは言うしかないよね、これ。
「話、聞こうか?」
「帰れるの?」
とたんに声のトーンが明るくなり、嬉しそうに目が輝いた。わんこか!
「あと15分だけ待って」
あああ。せめて営業の沙耶も呼びたいけど、ダメだよね、沙耶って黙っていられない子だし。三上くんに言うなって言ったそばから私が同期にバラしてたら意味ないし。
こういうとき、沙耶だったら「しっかりしなさい」と発破をかけたり、「今忙しいから他あたって?」と明るくシャットアウトしたりを罪悪感なしにできるんだろう。
私はどうもダメ。落ち込んでる人から声がかかったら、つきあってあげないと悪いような気がしてしまう。
特に私以外の人には話せない状況にある三上くんには、とことん付き合うしかないか。泣かれたらどうしよう、っていうのだけが怖いんだけど、この雰囲気だと前みたいに泣いたりはしないよね? 飲もうか、こうなったら。
飲みは数少ない得意分野で、まあいわゆるザルだよ、私。
「オレも片付けてくるね。真奈ちゃん行きたいところとかある?」
落ち込んではいるものの、私の希望を聞いてくれた。ジェントルマンだね、さすが王子。飲めるとこならどこでもいいよ、私。焼酎でもワインでもいけるよ。
会社では、男の人はだいたい私を『植木』って呼ぶ中で、この人と平内さんだけが『真奈ちゃん』。
イケメンの平内さんにかわいがられるのはいいんだけど、三上くんは同期の女子みんな名前で呼ばれてて女子ランチにもたまに参加しちゃったりするから「もしかして女子なの?」といううわさもある。
でも、長く続いた彼女いたんだよね。私は会ったことなかったけど、かなりかわいい子だったって、他の同期から聞いてる。
振られるし飛ばされるし、最近散々なんだね、三上くん。9月いろいろ大変だった私もわかるよ、そういうときあるよ。