ウサギの社内システムを拡張するプロジェクトには社内の抵抗勢力とかがあるらしく、三上くんはいろいろ悩んでいるみたい。
なんでオレがこんな仕事、みたいなグチを少し言ってから、ハッとして反省してる。
「ごめん、オレ酔ってるかも。頑張ろうと思ってるんだけどね」
客先への常駐って大変なんだろうなって想像することしかできないけど。
同期で一番技術に強い彼を、こういう対人交渉の仕事メインに回す意味は私にもわからない。経験を積ませるってことなのかな。大変だよね。
でもきっと三上くんだから大丈夫。
そう言ってみたら、並んで座っている三上くんがカウンターの下でぎゅっと私の手を握った。
「異動決まった時にもオレだからって言ってくれたよね。オレたぶん、あの時もうおちてたよ」
え、私落とそうとかしてないけど!と言い訳しようとしたら笑われた。
「わかってる。でも、他の奴にはそういうこと言わないでね?」
隣から顔が近づく。恥ずかしくて思わず身を引いてしまうと、三上くんは困ったように目を細めた。
まずかったかな今の。どういう風に振る舞えばいいのかな。と、考えるほど挙動不審になってる。
「真奈ちゃん、沢田さんと仕事するんだって?」
三上くんが何事もなかったように離れて、さらっと話題を変えてくれる。
「仕事教えてもらってって香さんに言われてる。明日打ち合わせなの」
香さんからは「沢田と真奈に基本任せるけど、報告とか相談はしてね」と明るく丸投げされた感じで、まだ何も聞いてない。
「からかわれたりしたらごめんね」
「うーん、全然興味なさそうだから平気じゃないかな」
そう。上野さんに私を誘わないでと三上くんが言ったことは、もちろん沢田さんに筒抜けらしい。でも意外にも会社では何も言われていない。噂されたりするのかなと身構えてたけど、拍子抜けかな。
いや、ほっとしたんだけどね。