休憩室に入って右。会議室を取るほどでもない打合せや、残業時の息抜きに使われているテーブルスペースがある。

香さんを探していてヒョイっと覗いたら、王子こと三上くんが、特に書類も持たずに1人で座っていた。ぼんやりしている。いつからいるの、どうしたの?

私と目が合うと、わざとらしくため息をついてうつむく。ああこれ、知ってる。『なぐさめて』のポーズだよね、王子。

特に急ぎの用事じゃないし、ここは同期として慰めないとだな。


「どうしたの、三上くん。おなか減った?」

そんなんじゃないってわかってるけど、一応明るく言ってみる。もうすぐお昼だよ。

「真奈ちゃん、いつも元気でいいね」

気だるげな声が答えた。はいはい。私は元気なだけが取り柄ですよ。



「オレね、異動なんだって」

頬杖をついて、私をじっと見ながら三上くんは言う。2年目の私たちにとって、それは大事件だ。どこだろう、管理部か営業部?

「辞令出たの?」

「いや、さっき内示って呼ばれてさ、田代さんに。10月からウサギだってさ」

「ええ? ウサギ常駐? え、でもそれ内示だよ?言っちゃダメだよ私に」

「そうなの?」

「そうだよ。辞令出るまで黙っててとか言われたでしょ?」

「ああ、言われたけど。同期ぐらいいいかと」

「よくないよ」

ちょっと、三上くんしっかりしてよ。辞令出るまでダメって社内ルールだし、一般常識じゃないの。異動はショックなのはわかるけど。


「ねえ、とにかくここに座ってて、来る人みんなにウサギに行くとか言ったらだめだよ」

「真奈ちゃんが最初だから平気。……そうか、ダメか。あと1週間、オレはこれを1人で抱えていくのか」

「1人じゃないじゃん。私に言っちゃったよ、今」

ドラマチックすぎるよ反応が。アニメとかに出てくる王子様みたいに派手な反応をする。だからふざけて同期に王子って呼ばれてるんだよ、三上くん。

見た目爽やかで服のセンスもよく、顔もきれいな感じなんだけど、性格がこうなので、残念ながらかっこいいとは思えないタイプだ。惜しいっていうのか。惜しい外見ですらない私なんかに言われたくないだろうけど。



「大丈夫だってば。ウサギにも同期いるよ、元気出して。席戻ろうよ」

三上くんを励ましながら、でもこれはきついだろうなあと思う。