「そうか。なんで?」

意外だなという顔をして田代さんに聞かれた。最近までずっと開発やりたくて私が気乗りしてなかったこと、気づいていたのだろうか。いや、私なんかのことなんて、いちいち見てるはずないか。

「こないだ失敗しといて調子いいですけど、改善したいところが色々あるのと、それに技術系より管理系のほうがやってて楽しいです」

「改善したいこと、例えばどんな?」

「複数で作業するとき用にチェックリスト作りたいとか、エラーの統計を取って次に活かしてみたいとか、そういう小さいことですけど」

大きなことが言えないのは歯がゆいけど、実際私に手が届きそうで周りの役にも立てそうなことってこのくらい。いくつものプロジェクトを担当していて、同じことを繰り返していると思うことが増えてきた。

「そういうの好き?」

「はい。心理系勉強してたのもあって、統計とか数字も好きです」

「そうか。管理系の仕事、独立させようと思ってるんだよね、ちょっと形は検討中だけど。香ちゃんだけじゃ回らないから、まず植木に手伝ってもらってもらうか。香ちゃんは数字の分析とかやらないから、その辺見てもらうとよさそうだな」

そうです、田代さん。香さんはデータ分析が好きじゃないと思います。よくわかっていらっしゃる。



「どうですか、半田さん」

「バランスいい組み合わせじゃないですか、米沢さんと植木さんで」

「じゃこのまま続けてもらおうか。で、やりたいことあったらどんどん提案してって」

「はい、ありがとうございます!」

やった。本当に希望が通った! もしかしたら最初から決まっていたのかもしれないけれど、でもやりたいことをちゃんと言えて、それでいいって言われたのは嬉しい。小さな達成感。



「植木、希望がいつも通るとは限らないけどな、得意なこととか楽しいこと、しっかり感じながらやるべきこと自分から見つけていくのはいいことだよ。少なくとも聞かれたらいつもそうやって答えられるように、自分の感覚大事にして働いて。

俺たちにも考えはあるけど、ただそれを聞くだけじゃなくていいから」

「はい」

「改善する話とか、香ちゃんも交えて1度話し合いしよう。植木には期待してるから、よろしくな」

田代さんは、最後ににやりと笑って励ましてくれた。



田代さんと直接やり取りすることはあまりなくて、私はこの部長さんの魅力が最近までわかっていなかった。香さんがすごく信頼を寄せている人だっていうのは知っていたけど。

でも、先日のミスの時にも私に責任の取り方を教えつつ、落ち込んでないでやることやれっていうメッセージをくれたし、今日もいい気分にさせてくれつつ頑張るように励ましてくれるし、人たらしというか不思議な魅力がある人だと見解を改めつつある。



それはそうと。

やった、また香さんのところで働ける。香さんにも報告しなくちゃ!

でも、席に戻るとお隣は空席だった。

「香さん知りませんか?」

周りの人達に声をかける。

「さっきまでいたよ、営業かな。休憩室かもね。どうした植木、嬉しそうだな」

「わかります? いいことあったんです。香さん探してきます!」

まずは香さんに報告したい。

あれ、でもこれすぐみんなに言っていいんだっけ。プロジェクト移るときは、実際発表するまで周りに言わないでって言われてた。異動じゃなくても、人の調整って同時に色々起こってるからへんな憶測を呼ばないようにって。

この会社は噂好きが多いから、特に必要かも、そういう措置。

今回は「移らない」って判断だから良さそうだけど、とりあえず香さんに相談しよう。

今日はランチも誘ってみようかな。