「なんなの真奈の会社って。私も転職したい」

日曜日のランチで誕生日を祝ってくれた高校からの親友、祥子が目の前でぼやく。

「かっこいい先輩に振られたら今度は王子様が出てくるとか、どうなってんの。私の事務所なんておじさんばっかりだよ」

弁護士事務所で働く祥子は出会いがないと文句を言っているけど、彼氏がいるならいいんじゃないのだろうか、出会いはなくて。

「うーんと、だから王子っていうのはあだ名だし、出てきたと言っても友達だし、祥子がうらやましくなるような関係ではないんだって」

「はあ? 引っ越し手伝ってって言われて、12時越えてからプレゼントもらって、それで狙われてるんじゃなかったら、真奈それはそれで相当やばいよ、20代女子として」

ああ、そう。やばくてすみません。



「でもねえ、誘って来たりするくせに肝心なことは言わないっていうか様子うかがってくる男って多いから、真奈がそんなぼんやりしてたら何も起こらないかも」

祥子がアイスティーを飲みながら、何か考えている。

「ここは、真奈から言っちゃったほうがいいね」

「何を?」

「『私のことどう思ってるの?』とか『どういうつもりで誘ってくるの?』とかそういうことだよ!」

なんでよ。『真奈ちゃんのことは好きだよ、友達としてね』ってにっこりされると思うよ、きっと。


無言で拒否したら、グラスをテーブルにどんっと置いて、まだ言う。

「もしくは真奈から告っちゃおうか、この際」

「祥子、今日話聞いてた?先輩に告白して振られたのね、私。なんでそこで同期に告白するの」

ばかばかしい祥子の提案に、一応突っ込んでみた。

「そこはもう、肉食としてデビューしちゃえばいいよ、勢いで。真奈は身近な男に好かれるほうがうまく行くんだからさ。いいじゃん、その人。真奈のさっぱりしてるところも酒豪なところも全部わかってるんでしょ」

「同期だからね」

わかってるから誤解はないかもしれないけど、と言うことはつまり、好きにはならないってことだよ。