「あんた、ここにいたの」

「!」


校舎の窓から、母親が顔を出した。




「…終わったの?」


「事情は説明して来たわ。後は、あっちが決めることでしょ」


「!」


そんな他人事みたいにー…


また、カッと頭に血が上る。


「あのさっ…」



「行く時は言わなかったけど、あんたが来る前に柳先生が家に来たのよ」

「!」


柳先生が?



「"一度でいいから、マナさんと向かい合ってください。そして、もうマナさんを解放してあげてください"って頭を下げに来たわ」




学校を早退した柳先生が、母親の元に行っていたなんて驚いた。


さっきそんなこと、一言も言ってなかった。


「あんた、愛されてるのね」

「!!」


母親が、ふっと笑った。


「あんたが、あんな風に感情を剥き出しにして怒った姿を見たのは初めてだった。それだけ、あんたにとっても大切な人なのね」


母親が笑った姿を見るのは、何年ぶりだろうか。


「親として私は失格よ。娘をどう愛していいか、わからなくなってしまった。だからあんたは、あんたを愛してくれる人のとこに行きなさい」


ドクン。


私を…愛してくれる人?



「捨てるわけじゃないのよ。ただ親子でも、離れていた方が幸せになれることもあるって言いたいの」


母親の話し方が前とは変わったのがわかる。



淡々とは話しているようだけど、温かみのある声。





私がバイトして稼いだお金を、知らない男に貸すような母親のくせにー…





「はは…」




何か、今まで恨んでいたのがどうでもよくなってきちゃった。