「校長から、俺の母さんの住所を書いた紙もらってるよな?」
「はい」
くしゃくしゃになった髪を整えながら、少し距離を取った柳先生を見上げた。
「今日から母さんの家に帰ってくれ。あ…櫻井が良ければだけど」
ドクン。
「え…」
なんで?
「もし、自分のお母さんの家に戻るならそれでもいいし。櫻井が決めていいよ」
柳先生は?
「私…」
私はー…
「じゃあ、俺は帰るわ。あんまり長居しすぎると、せっかく校長も櫻井も頑張ってくれてるのに意味がなくなっちゃうから」
そう言うと、柳先生は背を向けて歩き出した。
「待って…やなぎせ…」
大きな声で呼び止めようとしたが、柳先生が振り返り¨しー¨っとジェスチャーした。
「…待って…」
小さな声で囁くように言う。
けどそんな声は、どんどん離れて行く柳先生に聞こえるはずがない。
「待ってよ…」
追いかければいいのに、足が動かない。
ここで騒ぎになれば柳先生が言った通り、校長先生やお母さんのしていることが意味がなくなってしまう。
離れていく柳先生の背中を、見つめることしかできない。
柳先生は、どこに行ってしまうの?