「…櫻井、荷物はどうする?」
帰り道の車内、柳先生が運転しながら聞いてきた。
あ…そうだ、荷物ー…
お姉さんのお墓参りや、柳先生のお母さんと出会えたことで頭がいっぱいで忘れていた。
「取りに行きたいなら、帰りに寄るけど」
時刻は、まだお昼過ぎー…着いた時間を考えても、まだ母親がアパートにいる時間だ。
"先週貸したお金、返せない?"
私がバイトして稼いだお金を、あの母親はどこの誰かもわからない男に渡していた。
「…いえ、自分で取りに行くので大丈夫です」
あんな母親の顔なんか見たくもない。
車の窓に写る自分の顔を見ると、ひどく歪んでいる。
怒り、悲しみ、呆れー…
この感情が渦巻く心で、あの母親に会いたくない。
「そっか。じゃあ今日は疲れたから、真っ直ぐ帰って家でご飯食べよう」
ぽんっと柳先生の手が頭を撫でた。
「…っ」
運転席の方を見れず、相変わらず窓の外を見ているが、自分の表情が変わったのがわかった。
「あ、材料ないから帰りにスーパー寄ってこう?何食べたいか考えといて」
さっきまで歪んでいた表情が、今は口角が上がり嬉しそうな顔をしてしまっている。
「…はい」
朝も気付いたが、今までとは違う心境の変化。
ドキドキ。
私はー…
もしかしたらー…