「どうした?こんなとこに突っ立って」
声を掛けて来たのは、柳先生。
「…別に」
目も合わさずにそう一言だけ言うと、柳先生のいる方向とは逆方向に歩き出す。
「帰るんだろ?下駄箱は逆方向だぞ」
…わかってる。
蘭が下駄箱で待っているから、行かなきゃいけない。
けど、そっちには柳先生がいる。
柳先生の近くには行きたくない。
家に居ても、旅行から帰ってきた日から避けている。
「おい、櫻井」
「!!!」
いつの間にか柳先生が目の前にいた。
驚きのあまり、声が出ない。
「ずっと聞こうか迷ってたんだけど…旅行で何かあったのか?何で、俺を避ける?前にも言ったけど、言ってくれなきゃ俺もわからないよ」
ドクン。
柳先生の大きな手が、頬に触れた。
「…っ」
ドクン。
ドクン。
心臓の音が、身体に響くのがわかる。