「ただいま~」
家にいったん戻ってボールを取りに。
ボールは和樹に1個貰ったんだよね。
どこやったんだっけ?
「ボールはどこだ♪」
「歌うな」
「ごめんって!……あっ、あった!」
玄関の棚にあった。
和樹と約束して間もないころ、あんまり使わないからって言われて貰ったんだ。
「そういえば、そんなのあったな」
「思い出した?」
「うん。まぁ……」
和樹の表情が暗くなる。
「どうしたの? 抱え込まないで言って。
私分かんないから」
「……兄ちゃんが愛用してたボール。
兄ちゃんのこと、思い出したくなかったから音羽にあげたんだ」
「はぁ!? そんな大事なものあげたの?」
「けど、いいや。兄ちゃんのこと思いだしとくよ。もう気持ちもだいぶ楽になったし」
「そう……。じゃ、行きますか!」
「ああ」
ボールを和樹に託して、私たちは隣で歩く。
和樹はボールを大切そうに、抱えて見つめていた。