和樹は涙を袖で拭いながら話した。



和樹のお兄さんが和樹を庇って亡くなったこと。


それが原因で家族から空気の存在になっていること。


サッカーはもとはお兄さんが好きなスポーツだから、和樹もお兄さんの代わりにやっていること。


私のことは小さい頃からコンクールを通じて知っているということ。


私のピアノを聴きたいけど、当時の私はそんなことが出来なさそうだからきっかけを探したこと。




包み隠さずすべて話してくれた。




「楓の顔みたらほんの一瞬でもそのことを忘れられた」



和樹の肩が小さく見えた。


和樹が小さなこどものように見えた。



「うん」



そんぐらいしか言えなくて。



私は小さなこどもをあやすように和樹を抱き寄せた。



それは無意識で。



自分でやったくせに、顔が赤くなったのがわかった。



「余命がほんとは3月までだったんだ。
だけど、病気の進行が異常に速かった」



「そうなんだ……」



和樹は私の肩で涙を拭う。