有澄奈が嘘でしょ……?
ミスタッチ……。
この予選はミスタッチで大きく響いてしまう。
たった1つだけでも予選突破は厳しくなっちゃうんだ。
有澄奈はそのことに焦って、ミスタッチがどんどん増えてく。
そしてスピードも速まってしまった。
多分、速く終わってほしいかと思っているから。
いくら有澄奈がピアノ上手くても予選突破はもう無理だと、誰もが思っただろう。
「有澄奈……」
私は小さくつぶやいた。
取り戻すのはもう遅い。
猿も木から落ちるっていうし、これでもっと上手くなれると思う。
有澄奈は調子が戻らないまま演奏が終わってしまった。
悔しそうな顔をしながら、一礼して足早に立ち去った有澄奈は今でも覚えてる。