「今は返事要らない」



「だけど……、私、和樹のこと……」



「知ってるよ。だから今はしないで」



白坂は切なそうな顔して微笑む。



「ごめんなさい……私そんなこと知らなくて、知らない内に傷つかせちゃって……」



「いいよ。泉は自分のことはとことん鈍感なの知ってるから」



「それに……私」



言わなきゃ。


白坂がどんなに勇気を出してくれたか。


留学のことちゃんと言って断らないと。



「まだ何かあるの?」



「私……留学するの。オーストリアに」



「……和樹に言ったのか?」



「ううん。言ってないよ。最後だからこそ普段通りに接してほしいから」



「そっか。頑張れよ」



「ありがと。だから、白坂と付き合えない。
ごめんなさい……」



私はぺこりと小さく頭を下げてから、走った。