唇の血をぬぐいながら、一人で深宮方向へ続く廊下を歩いていた。

王の一声で、さっきまで張り付いていた近衛の見張りははずされたのだ。

(さてと……どこに飛ばされるんだかな)

ふっと笑って歩く。

命は奪われなかったが、王都へはこれを最後に入れない。

だから……桜とも、もう最後だ。

こんな、主君にあらん限りの温情を受けて、桜の王に対する愛情を嫌というほど見せつけられたのに。

やっぱり切なく痛む胸に、情けなくなって目をつぶった。

日が傾きかけて、深宮への渡り廊下への出入り口から少しオレンジ色がかった光が、シュリを照らした。

カタン、という足音とともに、渡り廊下へ降り立った時。

「シュリさん!」

きっと、ずっと忘れられないであろう、優しい声がした。

驚いて前を見ると、陽に照らされた黒髪の少女と、逆光でも際立つ中性的な美貌の同期が歩いてくるところだった。

「桜……!アスナイ」

「シュリさん……シュリさん!」

早足で歩みより、潤む目でシュリを見上げ、そっとその腕に触れた。

「良かった、会えて。謁見のお部屋の前に行こうとしてたんです」

「そうか…」

「シュリさん……ごめんなさい、私が無茶をしたから……」

きゅっとその手に力を込めて、悲しそうに眉を寄せた。