「落ち着いた?」


私は、こくりと頷いた。


「…ごめんね、泣いたりして」


「ううん。…俺さ、思うんだけど、声って本当に人それぞれだと思うんだよね。人それぞれじゃないとつまらない。だからあんたみたいな声の人がいるのも当たり前だし、何もおかしくないし。それに」


彼は少し照れくさそうに下を向いた。


「俺、あんたの声嫌いじゃないよ」


そんなこと、言われたことなくて、
どう反応したらいいかわからなくて戸惑ってしまった。


「…俺さ、自分の作った音楽をバンドで鳴らすのが夢なんだよね。バンドマンなんて必ずしも上手くいくような夢じゃないし、非現実的かもしれないけど。それでも、小学生の頃からの相棒のギターと、この声で、どうしても食っていきたいんだ」


かっこいいと思った。
私にはきっと、一生持てない夢を見て、キラキラした笑顔で話す彼を見て、今まで抱いたことのない感情を抱いた。


「…きっとなれるよ。応援してる!」


「…ありがとう」



微笑み合う。

だって、本当になれると思うんだもの。
きっと私のように、彼の歌で元気づけられる人がいる。




「あんた、名前は?」

「…菅原 優香」

「優香な!俺は橋本 恭介。毎日放課後ここにいるから。…また来てよ」




これが私と、



素敵な声を持った彼との出逢いだった。