「…ふー、気持ち良かった。って、え!?泣いてんの!?なんで!?」


夢中で歌っていた彼は、歌い終わってから私の涙に気付いたらしい。


「ごめん、俺なんかした?」


彼は不安そうに私に問う。

そうじゃ、ない。

私は必死で首を振る。


「…だったから」

「え?」

「あなたの歌声が、すごく綺麗だったから。感動して…」



初めて、しっかり、彼と目が合ったような気がする。



「私、声がコンプレックスなの。こんなガサガサしたダミ声の人、普段なかなかいないでしょ?この声のせいで、小学生の頃いじめられてたんだ」


今度こそ、川の流れる音と草の揺れる音しか聞こえなくなった。
彼は黙って私の目を見ている。


「中学生になって、こっちに引っ越してきて、絶対友達作るぞって思ってたんだけど…怖くて。声を発するのが怖くて。結局誰とも話せなくて。私に友達なんて出来ないんだって悲しくなっちゃって…ここで、一人で泣くしかなくって」


また涙が滲んできた。

ぐっと涙をこらえていると、頭にぽん、と温かい感覚。


「…大丈夫だよ」


彼のその一言に、私は涙が止められなくなってしまった。
彼は泣きじゃくる私の頭を、ただただ撫でてくれていた。


あれは一体、何の涙だったんだろう。

きっと、安心の涙だったんだと思う。