『いいよ。』

そう言って俺は小さな手から鉛筆の代わりにそれを握らせてやるとサナはわずかに口角が上がった気がした。
初めて使うシャーペンは力加減が難しいようで芯を何回も折って四苦八苦しながらもサナは嬉しそうだった。

国語が得意な理由としてまず考えられたのがサナはどうやら本を読むことが好きらしい。
祖母の愛読書が押し入れにあるのを思い出し、試しに50冊以上あるそれを見せてやると勉強の合間に読み進めており本のページには自分で調べたのかよみがなをふっていたりと、本を読むことに熱中して食事をとり忘れていることも多々あった。
祖母の好んでいた本は少し古い時代のものばかりで若い子には向いていないはずなのにサナは文字を読むことが面白いのか、飽きることもなく8月に入るころにはすべて読み切ってしまっていた。

どこに出かけるわけもなく1日中机に向かっては勉強に励み、たまに俺が図書館に連れ出してやると閉館時間まで本を読みふけったりした。サナは勉強することに楽しさを覚えてくれたようで家に初めて来た頃よりも人間らしい表情を見せるようになった。

気がつけば蝉の声も聞こえなくなりうだるような暑さから一転少し肌寒くなった。