サナがこの家にやってきてから10日ほどが経った。
相変わらず最低限のこと以外は会話はしてくれず真理子叔母さんはというとサナを置いて田舎に帰省してしまったらしい。
母さんや俺にサナを押し付けて逃げたのだ。
仮にも自分がお腹を痛めて産んだ子供をこうもあっさり投げ出すとは。


『サナ、今日から一緒に受験勉強しよう。』

そう俺は中学生の時に使っていた受験教材を抱えてサナの部屋に入るとサナは祖母の描いた海の絵を眺めていたようでゆっくりとこちらに顔を向けると首を傾げた。

『来年、俺の通ってる西條高校に入学しよう。』

『どうして? 今さら学校なんて。』

『高校は出ておいたほうが後々きっと役に立つ。な?』

サナは俺の持っていた教材に目を向けると渋々、『わかった』と了承してくれた。


サナの専属教師になったはいいもの、受験勉強は実に困難を極めた。
それもそのはず学校に通ったのはほんの1年生の最初の2~3ヶ月だけ、この2年まったく勉強をしてこなかったのだ。
ひとまずサナの学力を把握するために簡単なテストを5科目で出してみた。
1科目10問程度のものでそれぞれ20分ほどで解いてもらうと国語は全問正解、数学は4問、理科は7問、社会は10問、英語は0問というなかなかに厳しい結果となった。受験勉強以前に基礎問題が解けるレベルにまでしてやらないと。

『サナは国語が得意なんだな。小学校の復習も含まれてるやつは解けているからなんとかなるかな・・・問題はまったく手を付けたことのない英語か・・・』

採点結果を片手に英語の基礎教材を引っ張り出す。生憎俺も中学生の時は英語が苦手で苦手で一桁ばかりとっては親に怒られた記憶がある。結局ほぼ克服しないままここまで来てしまったわけなのだが今は赤点を回避することぐらいしか・・・

『とりあえず、ローマ字を書くところからだな! この練習ドリルやっていこう。』

そうサナに鉛筆を握らせるとサナは隣のお手本と自分の手元を交互に見ながら一字一字丁寧に書いていく。

サナがローマ字の練習をしている間に俺は夏休みの間の勉強のプランを立てる。
ノートにシャーペンで詳しい予定まで書きこんでいくとふと視線を感じてサナに目を向ける。
サナは俺の手元のシャーペンをじっと見つめているようだった。

『これがどうかしたか?』

『それ・・・が、いい・・・』

サナは小さな声でそう言うがすぐさま俯いてしまった。