藤山のことはいっぱい目に焼き付けた。剣道着姿も見納めした。
もう、十分だ。
小さく一礼して武道場に背を向けた。
「帰るの?」
声を聞いただけで、自分の胸がときめいたのが分かった。
振り返ると、ドア元でスポーツドリンクを片手にした藤山が私を見ていた。
「う、うん。あんまりいると帰るの遅くなるし」
私ちゃんと笑えてるかな?
帰りの時間と考えてるわけないのに、嘘って思われてないかな?
「そっか」
「うん。じ、じゃあね。あっ!練習頑張ってね」
言えた。
頑張れって言えた。
心の中で小さくガッツポーズをした。
「ん。あまりも気をつけてね」
そう言った後にやべ。って表情をした藤山。
今……あまりって言った?
ねぇ、言ったよね?