菜子は私の両手を掴んで立ち上がらせると、キッチンへと手を引いた。
 

クッキーを作っている間は、本当に楽しくて、作っているうちにお母さんの手紙のことを忘れている自分がいた。


でも、何もしていないふと瞬間。必ず思い出すのはさっきの手紙の内容。
 


もう寝なきゃいけないっていうのに、目を閉じていてもくっきりとお母さんの書いた文字が瞼の裏に浮かび上がって消えない。
 

目をそっとあけて隣に眠る菜子を見ると、静かに寝息を立てて眠っている。
 

傾けた首をもとに戻し、天井を見上げた。
 

菜子は、『みんな悪者』だって言っていた。

菜子の言っていたみんなって誰だろう。

雄太郎さん、美由紀さん、私のお母さん、拓……もし、本当のことが分かったら、一番の悪者っていうのは誰なのだろう?

 

「やっぱり雄太郎さんなの?」
 


記憶を取り戻したいって思っていたはずなのに、今はそのことがすごく怖い。

だって、雄太郎さんのことを『悪者』とは、思いたくないから……。