その後、一紀が私の荷物を自転車で取りに行ってくれて菜子の家に届けてくれた。
「ありがと……」
「うん。雄太郎さんから伝言。明日気を付けて行っておいでって」
「……」
私は黙って一紀から大きなスポーツバックを受け取ると、それを床の上に置いて、上半身をそれに預けて脱力した。
「明日向こうについたら、一番に優花のお母さんのところ行こう。拓に、案内してもらうようにLINEしておくから」
一紀はそう言うと、「明日の準備してないから」と、すぐに家に帰ってしまった。
「ねえ、菜子……私ちょっとね考えてたの。雄太郎さんが研究の材料として私を買ったんだとしたら、私はすでに研究されてるってことだよね?考えたくはないけどさ、雄太郎さんが研究をしていたのは記憶に関係する薬じゃん?私、もしかして薬で記憶消されたんじゃない?あの時、記憶を戻す薬はないって言ってたけど、もしかして記憶を消す薬は完成してた……とか……」
「ちょっと……ねえ、考えるのやめようよ。なんだか怖くなってきた。私、一紀みたいにちょっと笑える返答出来ないよ?」
「……別にそこは求めてないから大丈夫。ただ、ちょっと考えちゃっただけ……」
私はスポーツバックにうずめていた上半身を起こし、「ごめんね、心配かけた」と菜子に微笑むと、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をした。