「ちょっと待って。海のホテルに行った時、車の中で話してたじゃん。えっと……なんだっけ。美由紀さんと二人で共同研究してた内容……ああ、思い出せない!」
 


菜子は必死で思い出そうと、髪の毛をくしゃくしゃとかきむしっていたけれど結局思い出せずに、一紀に「ねえ、なんだっけ!?」と聞いていた。
 


「……記憶に関係する薬の研究をしてた……」
 


「記憶……え?じゃあ、何?研究するために優花は雄太郎さんに買われたってこと?」
 


『買われた』その言葉を聞いた瞬間、胸にズキンと痛みが走った。
 


「この一文だけじゃ、よく分からないし……とにかく向こうに行った時に直接聞いてみようよ。それより、顔が青いよ、大丈夫?横になる?」
 


菜子が私の背中を優しくさすってくれた。
 


「優花、明日の準備ってもうしてある?」
 


「してあるけど……」
 


「そうしたら、雄太郎さんにここに荷物届けてもらって、今日は菜子の家に泊まったらどうだ?正直、俺雄太郎さんのことなんだか信用ならないよ」
 


「そうしなよ。私の家は泊まっても全然構わないしさ。こんな状態の優花をほっときたくないし」
 


菜子はそう言って、私のことをぎゅうっと抱きしめてくれた。
 


「雄太郎さんに会いたくないなら、俺が今から自転車で取りにいってもいいよ」
 


「その方がいいんじゃない?今、雄太郎さんに会いたくないよね」
 


私は、菜子の胸の中で静かに頷いた。