美由紀さんと言い合った日以来、美由紀さんの言葉と自分の思いが頭の中でずっと葛藤していた。

勉強でもバイトでもなんだっていい。

とにかく何かに集中してさえいれば、その葛藤は少しの間どこかへ行ってしまう。
 

だから私は、毎日をごく当たり前に過ごした。


できるだけ考えないように。
 

そうしている間にあっという間に時間は流れて、今日から夏休みが始まった。
 
夏休み初日。

私たちは菜子の家に集まって、明日からの作戦を立てることにした。
 

白とピンクで統一された、女の子らしい菜子の部屋の真ん中にある小さくて丸いガラステーブルに三人顔を突き合わせて座る。
 


「ごめんね。こんな暑いのに扇風機しかなくてさ」
 


菜子が氷の入った麦茶を出しながら申し訳なさそうに謝った。
 


「全然平気。暑かったら脱ぐから」
 


一紀が、真顔でそう言ったもんだから私と菜子から同時に「やめて」とツッコミを受けた。
 


「あ、ところで勉強合宿の欠席届け通った?私は大丈夫だったけど……」
 


「俺は問題なし。優花も大丈夫だったろ?」
 


「うん。大丈夫だったよ」
 


私たちの高校は、夏休みに3泊4日の勉強合宿がある。

その間に、私が『彩智』だったころに住んでいた家がある町に行こうということになっていた。

そのためには、勉強合宿の欠席届けを出さなくちゃいけなくて保護者の承諾が必要なのだが、私たちはお互いに保護者欄のところにサインをして、嘘の欠席届けを提出したのだ。