二人が二階にあがったのを確認してリビングに戻り、食べ終わった夕飯の食器を片づけているとき、美由紀さんが二階から降りてきた。
 
美由紀さんと目があったけれど、なんだか気まずくて話しかけることができなかった。

美由紀さんもそれを感じてか、何も言うこともなくケトルでお湯を沸かしながらコーヒーを淹れる準備を始めた。
 

コーヒーの粉をペーパーフィルターに入れながら「変わらないでしょ?」と、美由紀さんが呟いた。
 


「え?」
 


「雄太郎。本当の妹じゃないって話、雄太郎から聞いたんでしょ?」
 


「はい……」
 


「その話してからも、雄太郎はいつも通りでしょ?」
 


「はい」
 


「そのくらい、優花ちゃんのことは妹として大事にしたいってことなんだと思うよ」
 


美由紀さんの言葉が、胸にちくんと刺さる。
 


「雄太郎はさ、昔優花ちゃんに助けられた分、恩返ししてあげたいって思ってるの。その行為は素直に受け取ってあげてね」
 


「あの……雄太郎さんは、私が記憶がなくなる前私に悩みを相談してたって言っていました。今は誰にその悩みを話しているんでしょうか」
 


美由紀さんは、分かっているかのようにふっと笑うと、挽いたコーヒーの粉にお湯を少しだけ入れて蒸らしながら「私がいるから大丈夫だよ」と、答えを返した。
 


「そう、ですか……。そうですよね、いらない心配を……」
 


私はいたたまれなくなって、洗っていた食器をそのままにして水道の水を止め、リビングを出ようとした。

逃げ出そうとした私の腕を「優花ちゃん」と言って美由紀さんの手が掴んだ。