「ちょ、倫子、倫子?どうしたんだよ!」
 私の様子に驚いた彼。

私の顔を確認しようと手をはごうとするも、私はこんな顔見られたくて、必死に抵抗。彼の手から逃れようと、お尻を床につけてすべりながら徐々に後ろに下がる私。

「倫子……。」
 靴を必死でぬいで、私に近寄ろうとする彼。

「あーもう!」 
 でもさっき結んだばかりのそれは硬くて、結局ひもをほどいてしまう。

「倫子、どうしたんだよ?どうした?ん?」
 ようやく靴はぬげ、私のそばに寄ってこれた直人は、私の肩をつかんで、責めるわけでもなく、優しくただ私の涙の理由を聞こうとする。

私は廊下のかべにもたれかかって、ただ泣くばかり。

「倫子……。」
 
「いやなの。」
 ゆっくり言葉を発した。

「うん。何が嫌なの?」
 嗚咽交じりの私とちがい、優しく穏やかにただ話を聞く彼。

「スニーカー…新しいの嫌だよ。
前のが……いいよ。」
 言葉をゆっくり発するとともに、だんだんと落ち着いてくる。

彼の手に掴まれている肩が温かかった。

「あ、うん。だから、それはね…」
 直人は諭すように話し始める。

「……違うの。」

「ん?」

「ほかの娘、見ちゃや。
……ほかに新しい娘…。」

「っ。」

なんて勝手なことを言っているのだろう。
自分でも分かっていた。

それでも私は、新しいスニーカーを見たとき思ってしまったのだ。

あ、知らない彼がいる。
あ、彼にもこの新しいスニーカーみたいに、いつかまた違う恋人ができるのかって。