「俺、27歳に見える?」
冗談交じり。私を笑わかせようとしてくれているのだとすぐにわかる。
「見えない。
でも…ちょっと痩せたから、体気を付けてね。」
私は彼が望んだ笑顔を返して、先にリビングを出る。
「…。」
彼がその時、手を私に向けて伸ばしてたなんて気づかない。
「直人?」
振り返る私に
「あ、うん。」
彼は私に目をあわせず、玄関へ向かった。
スリッパを脱いで、靴に履き替える。私はスリッパを戸棚に直した。
「じゃあ。」
私がそう言おうとしていた時、
「あ、靴紐とれてるわ。」
そう言って彼はしゃがんで結び始めた。
私はそこで気が付いてしまう。
「あれ?
直人、そのスニーカー……」
「あ、買ったんだ。
っていってもね、」
彼は私を見ずに、靴紐を結ぶ。
彼がまだ続けて何か言ってるのに、耳に言葉が入ってこない。
なんでだろう。あんなに我慢できていたのに。
あんなに言えなかった言葉が、そんなスニーカーが変わったごときで。
「いやだ。」
「え?」
直人が手を止め、見上げる。
ポタンと彼の顔に雫が落ちる。
「え?え?え?」
彼のびっくりした声。
「いやだ。」
私はしゃがみ込んで手で顔を覆う。
嗚咽まじり、私は声をあげて泣いた。今まで我慢していたものがすべてその涙に込められていたかのように、とにかくとにかく大声で泣いた。