それから私達は二人並んで、いつもの道を歩いた。
ゆっくり、ゆっくり。
いつもよりも倍の時間かけて……。

うつむく私、何も言わない彼。

聞こえるのは、お互いの歩く音、駅の音、
遠くからの車の音。

隣を歩いているだけなのに、やっぱり幸せな気持ちになるのは変わらなかった。

ちらっと、彼の顔を盗み見る。
変わらない。ふわふわの髪も、優しそうな目元も。
あえていうならば、また少しだけ痩せた……

パキッ。枝を踏んでしまって、音がなる。

「もうちょっと、こっち寄りな。」

「あ、うん。」
 彼の方へ近づく。手があたってしまうんじゃないかって程の距離。

…このまま手をつないでしまおうか。
そうしたら私達あのころみたいに、

「相変わらず街灯少ないね、この道。」
 ばか、何考えてんの。
顔見て、思い上がっちゃって。

「えっと、それでどうしたんだっけ?」
 余計なことを考えなくてすむよう、私は彼に話を切り出した。 

「あ、うん、こっち来たついでに荷物貰おうかなって、倫子の部屋に服とかおいてたよね、ちょっと。」
 聞いてすぐ、私に会うための口実だとわかった。

だって彼が私の部屋に置いてあるものと言えば、1着の部屋着しか思い浮かばない。彼の自宅に他の部屋着があるはずだから、あってもなくても彼が困ることはない。

でも―――そう分かっていても、分かっていても、これで彼に会うのは最後になってしまうのかもしれないと 

あなたのそばに少しでもいたいと、

この気持ちが彼にばれてしまわないように、私は「うん」とうつむいてうなずいた。