いつものことだから、気にしない。
全く気にならないわけじゃないけど、気にしてたらきりがない。

このクラス、いや学校中で、私のことを本気で心配してくれる人間はひとりもいない。
だから、最初から、誰かの優しさを期待して傷ついたりしない。

一番後ろの席について、ティッシュでそっと額を押さえる。
ようやく血が止まった。

ほっとして、私は前髪の間から、視線を前に向ける。

私の斜め前方、一番の前の席で、背筋のピンと伸びた白い背中を見る。
綺麗にアイロンがあてられた白いシャツが、すすけた教室の中で輝いている。


まぶしいなあ。


うれしくなって、私は目を細める。口の端が緩んでにやけるのを、必死でがまんする。

中3になって、初めて彼と同じクラスになったときは、本当にうれしかった。
始業式の日、クラス分けの一覧表の前で、思わず息を吸い込んだ。
あまりにもびっくりしたから、「ひぃっ」と短い悲鳴を上げてしまった。

近くにいた生徒が何人か、「気持ちわる!」と私を睨んだ。

ああ、神様っているのかも。
こんな私にさえ、これほどの幸いを与えてくれるなんて、なんて太っ腹な神様だろう。

よく見ると、小学校の時からずっと私をいじめる連中の名前も、同じクラスにあった。


ああ、神様ってバランスがいい。
幸いと苦しみを等分にお与えになる。


でも、彼の後ろ姿を見ていられるだけで、どんな苦しみだって耐えられると思った。