すぐに鬼ハナが息を飲み、門扉に手をかけて私の顔を覗き込んできた。

「あらやだ。どうしたの?ケガしたの?」

「え?」
私は、まぬけた声でオウム返しする。
鬼ハナ先生は、そんな私にイラついた声で言った。
「額から血が出てるわよ!ナニやってんの!さっさと保健室に行きなさい!」

恐る恐る額に手をあてると、ぬるりとした感触。
見ると指先にべっとりと血がついていた。
視線を落すと、両膝もすりむいて血が流れている。
我ながら、見るだけで痛そうな傷だ。

ひとりで保健室に入ったものの、養護の先生はいなかった。
勝手に棚から消毒液を取って傷を洗った。

保健室の洗面台の上についている鏡を覗き込んで、鼻の頭は無傷だと確認。
見慣れているけど、つくづく扁平な顔。
漫画の背景に描かれる群れる群衆のひとりにしかなれない顔だ。

平凡以下の顔とはいえ、やはり顔に傷がつくというのは悲しい。

額はひどくすりむけて真っ赤な血がまだにじみ出ている。
ガーゼをあててバッテン印の絆創膏でとめるわけにもいかず、さてどうしたものかと考える。

結局、両膝だけにガーゼをあてて、額は前髪で隠した。


1時間目の半ば過ぎにようやく教室に入れた。

満身創痍の私の登場を、クラスメイト達は完璧な無視で迎えてくれた。

鬼ハナ先生から話が通っているようで、教卓の前にいた担任の篠原先生が、
「大塚、大丈夫か?」と言った。

「大丈夫です」と小声で答えた。

誰かがクスクス笑う声がした。