シートベルトを着けるのを確認すると
車はゆっくりと走り出した。

初めて会ってから二年が過ぎた私達。

ハンドルを握る横顔を見ると視線に気付いたのか

「何が食べたい?」

彼が口を開いた。

姫川亨(ひめかわとおる)それがこの人の名前。

年齢は34 歳、若葉が年上のダーリンと言うには離れすぎだと思う。


心の中でそう思いながら

「なんでもいいです」

そう答えると

「たまには桜が決めて」

前を見つめたまま妙に低くていい声で言う。

映画の声優みたい

初めて会った時の印象を思い出した。


「本当になんでも良いんで」

大学が終わったばかりで夕食にするには
早い時間だった。


「じゃあ買い物でも行くか」

赤信号で車が停車すると私を見て言った。


「姫川さん、もうそういうの困ります」