あの日のお母さんの顔は今でも忘れられない。
お母さんは姫川亨一郎って人が好きで、
他の人と結婚して会えなくなっても好きだった。
「別れてから5 年くらいたった頃に再会したの、うちの病院に、あの人が入院してきてね」
お母さんは看護師で、ずっと同じ病院で働いてる。
「びっくりした」
お母さんは悲しそうに笑って言うと
「全部お母さんが悪いの。でもね」
お母さんは泣きそうな目だったけど、はっきりと
「桜に会えたから後悔してない」
そう言って、また笑った。
あれから姫川さんの話はしてない。
それにその時、お母さんが
「桜が会いたいなら」
私がこれからどうするかは自分で決めて良いって言われた事にホッとした。