「なぜ」

 疑問の投げかけは、歩みを進めながら。

 眉を吊り上げた黄橡の制止を受けそれ以上進めないが、それでも華王に聞いていた。

 「会いたかったなど良くいえる。同族全てを捨て逃げた卑怯者のくせに」

 眉を顰めたのは、朽葉だけではない。

 黄橡はあからさまに嫌がった。

 「その話はやめろ。でないとお前の前髪を掴み地面に顔をめり込ませ、舌を抜いた後目玉を穿り出しそのダシ汁をお前の大事な女に飲ませるぞ」

 「…灰梅がどんな目にあったか知っているか?お前が逃げた後村を追われどこにも居場所なんてなく…見つかればまた追われる。それでもお前が現れるかもしれない。また会えるそれだけ信じてずっと…それを会いたかっただなんて簡単な言葉で語るな。逃げたお前が彼女の悲しみを受け入れられるわけがない!本当に会いたいと思ったのなら、生きていたことを喜ぶならなぜあの時人間から彼女を護らなかった?なぜ逃げた!」

 「黙れ。貴様に王の何がわかる」

 「白磁、やめて。それ以上言ったら…きらいになる…嫌いになっちゃうからね」

 どんな制止よりも、白磁を止めるには効果的であった。

 振り返った白磁には、なぜ灰梅が泣いているかわからなかった。

 涙を拭わず震える彼女が、なぜそんなに怒っているか、その矛先がどこに向いているかさえ理性的に考えられなかった。

 それほど華王への怒りよりも彼女が傷ついていることがショックだった。

 「…華王様に失礼な言葉を言わないで。華王様にそんな言葉言わないで。私なんてどうでもいい…亡くなった華族のみんなだって…どうでもいい…華王様は生きてる。それだけが全てなの。私にとって、華族にとって、華王様がここにいる。それが全てなの。だから失礼なこと言わないで」