遠く広く、胸の中に沈み込んでくるような声が聞こえる。
遥か彼方でも微かに聞こえるのは同族だけか。
顔のわからぬほど目深く帽子を被った歌謡いがむき出しの地面に足を組んで座った。
傍に控える腰に鞘をさした長身の男も、帽子を深く被り顔がわからない。
男に抱えられていた踊り子が歌謡いの準備が整うのを見計らい、裸足で地面を踏んだ。
それと同時に、歌謡いが息を吸い込めば不思議。
歓声はいつも、少し遅れて上がるものだった。
通行人の反応は一様に同じ、足を止め息を飲み、一呼吸置いて人だかりとなり歓声へ変わる。
軽やかなステップで踊り子が舞う度に、歌謡いの声が弾む。
異様な三人組は決して金を投げる容器を用意しない。
それがまた不思議でどうしようもない魅力となっていた。
踊りが終わり、踊り子が男の腕に再び抱かれた時だった。
「あの!」
目に涙を溜めた女が胸の前で両手を握り声をかけてきたのは。