あいは、一人送りの車の後部座席で運転手を相手にウサをはらしている。

「なんなのアイツら、ちょっと売上が良いからって調子に乗りすぎじゃない?あたしが嫌いなだけでグループで責めてくる。」

運転手は、黙っている。

話を聞いているのかどうなのかわからない。

「明日休もうかなぁ~…なんかめんどくさいし…」

時間はもう、午前4時前。

車通りもほとんどない車外を見ながら、あいは運転手に話しかける。

「彼氏に会いたいなぁ~…」

「賢人に会いたいなぁ~…」

「電話かけてみよ!」

おもむろに鞄をあさり、携帯を取り出して電話をかける。

コール音が鳴り続ける。

何度も鳴るが出る気配がない。

「寂しい…」

一人ボソリと呟く。

電話を握りながら、イライラが募る。

「なんなの!賢人もアタシがいないとダメじゃない!」

そう言い放つと同時に電話が鳴る。

「もしもし?」

「あい、どうした?」

電話先から聞こえるのは、彼氏の声だった。

「賢人!今から家に行っても良い?」

「まだ仕事中だから、明日じゃダメ?」

あいは、電話先の店内でかかる音楽を聴き、自分を落ち着かせる。

「じゃあ、明日行くから…」

彼氏は、「わかった。また電話するよ」と言うと電話を切った。

あいは、電話を鞄に直すと運転手に言った。

「アタシの彼氏、ホストなんだ。世界一カッコいいんだよ!アタシが世界一にしてみせるんだから!」