ホテルでの自由時間。
さくらちゃんはロビーで羽柴くんと話してくるって部屋から出て行った。
あっちゃんは他校の彼氏に電話しに行っちゃった。
部屋には私一人。
(なにしよう…)
”なにしよう”っていうか、何したいかは自分でもわかってる。
「高遠くんに電話しても平気かなぁ…」
まだ2人とも当分帰ってこないだろうから、電話しちゃおうかな。
でも部活で疲れてるかなぁ。
「疲れてそうだったら電話切ればいいだけだし」
そう自分に言い聞かせて、スマホを手にした。
1つ深呼吸する。
やっぱりまだ高遠くんと電話するの緊張する。
電話だけじゃない。
顔を見るのも、手をつなぐのも、何をするにも緊張する。
でもそれは嫌な緊張感じゃなくて、きっといつかほぐれていくって信じてる。
5回呼び出し音が鳴った後、いつもの心地よい中低音の穏やかな声がした。
『もしもし、先輩?』
「えへへ、電話しちゃった」
『その言い方は用があってかけてきたんじゃないね。珍しいじゃん、そういうの』
そうだっけ?
でも電話の向こうの高遠くんの声がなんだか嬉しそうだから、きっとそうなんだろうな。
「今、自由時間なの。高遠くん、もうご飯食べた?」
『食べたよ。風呂から出てゆっくりしてたとこ。今日どこ行ったの?』
なんかいつもより会話がスムーズな気がするのは気のせいかな。
いつも私が緊張しちゃうから、ちょっと間ができちゃったり会話が続かないこともあるけど、今はお互い言葉がポンポン出てくる。
「今日動物園だったの。シロクマ見たら高遠くんと動物園行ったの思い出したよ」
それで胸がきゅうってなったんだよ。
高遠くんに会いたくなっちゃったんだよ。
『あれ初めてのデートだったよね。先輩シロクマとホワイトタイガーに夢中でさ』
「覚えててくれたんだぁ…」
男の子って記念日とかそういうのいちいち覚えてないってよく言うけど、覚えててくれたんだ…。
『覚えてるよ。俺めっちゃ浮かれてたから』
「え?なにそれ。ほんと??」