「何か話したの?」
「別に…、何も話さなかったよね」
「互いに、ジッと見つめ合っただけ?」
「うん、そうだね。話しかけてみようかなあって思っていたけど、何故か言葉が出なくてねぇ。ただ相手を見つめるだけだったよ」

 不思議な女性について、私は覚えている範囲で説明を続けた。
 同じように興味を抱く杏奈は持参しているスケッチブックを広げた。

「ねえ麗良、もう一度その女の人について説明してくれる?」
「え?」と杏奈に振り向いた私。

 カバンから筆箱を取り出し、フタを開けてデッサン用の鉛筆を手にした杏奈。